出前館エンジニアの組織開発とキャリア形成とは?

LINE株式会社(以下、LINE)との資本業務提携が締結されてちょうど1年。フードデリバリーの需要が急拡大する中、マーケティングが奏功し企業として急成長する出前館では、組織改編や大々的なプロダクトのテコ入れなど、所属するエンジニアを取り巻く環境も変貌を遂げています。

組織として出前館が向き合っている課題とは?そして、出前館で働くエンジニアのキャリア形成とは?エンジニア部隊を率いるお二人に話を聞きました。対談形式で赤裸々にお届けします。

目次

<プロフィール>

吉川英興:LINE株式会社開発3センターサービス開発2室所属。2010年、株式会社ライブドア(現LINE株式会社)に入社後、ロケタッチ、LINEポイントなどの開発に携わる。2020年より出前館のプロダクト開発を担当。

米山輝一:株式会社出前館プロダクト本部プロダクト開発部VPoE。楽器メーカーで音楽配信サービスなどの開発を担当後、ITメガベンチャーでタクシー配車アプリのハードウェア開発を担当。2021年5月より出前館に参画。

役割分担とチーム分けでスピード感のある開発体制に

―まずこの1年を振り返ってみていかがですか?

【米山】
私はこの5月(2021年6月時点)にジョインしたばかりなので、英興さんから教えてもらう形になりますね。まず初めに何をやったんですか?

【吉川】
今の米山さんと一緒ですよ。まず色んな会議に出て色んな情報を聞いたり、そもそもフードデリバリーのことをあまり知らなかったので勉強したり。藤原さん(出前館取締役・COO)が目指していることを聞きながら、出前館の開発体制をどうしていくのか考え始めるところから入りました。

今でもシステム的にまだまだ問題はありますが、昨年はもっと混沌としている状況でした。そもそも開発エンジニアが社内に数名しか在籍しておらず、ほとんどの開発を協力会社に依頼していたので、まず自分たちの手で開発できる体制を目指すことにしました。

9月あたりから、開発の組織化やソースコードの管理に着手しました。社内で開発する体制を少しずつ整えて、11月頃にはリリースまで社内で完結できるようになりました。12月頭に行ったLINEポイントの連携は、LINE社と出前館がタッグを組んで開発した案件です。

【米山】
新型コロナウイルスの影響による外出自粛もあり、フードデリバリー需要がすごく伸びていましたよね。マーケティングにもかなり力を入れていて、加盟店や配達員の数も増えて事業が急成長していくんだけど、システムが追い付かない。そこを何とか良くしていこうとして戦ってきた1年間ということですね。

【吉川】
開発目線で見ると、それまではすごくスピードが遅かったんです。協力会社に依頼している分、小回りが利かず、事業会社が自分たちで使うシステムを外部発注して作ってもらう体制に近かったので、そこをまず見直しました。今は、優先順位に応じて短時間で判断しながら、色々と開発できる体制になってきたところです。

【米山】
今までのモノづくりのやり方は、いわゆる"IT企業っぽいやり方"ではなかったということですよね。LINEは外部発注ではなく、エンジニアが会社の一員としてサービスを一緒に作っていくと。そこのマインドを変えていくのもなかなか大変だったのではないでしょうか。

【吉川】
開発の体制面と同時に組織も変えています。出前館の多岐にわたるシステムを、元々出前館にいる5人くらいの開発メンバーが全部見ているような形でした。そこにLINEのエンジニアが加わって一緒に開発するとなると、全員が全部を見る形ではスピード感のある開発ができない。全部を把握しているってすごく大事なんですけどね。ある程度担当を絞り、いくつかのチームを作って別々に走れば、並列に稼働できるし、各々がそこで起きていることに対してより詳しい部分まで把握する時間もできます。

【米山】
「良くも悪くも"全員野球"をしていた」イメージと色んな人から聞きますね。ポジション分けがなくて、とりあえず皆打席に立って打て!みたいな感じだったと。最近は役割分担が明確になって、障害対応も経て、やっと組織や環境として落ち着いてきたと。

【吉川】
加盟店開発チームやシェアデリ開発チームなど大まかに分けて、担当するシステムを明確にしました。出前館メンバーだけのチームとか、LINEメンバーだけのチームというのは作らないようにして、それぞれ混ざるようなチーム分けをするという点にも気を配りながらでしたね。

エンジニアのキャリア形成も見据えた組織づくりを

―ある程度系統立ててシステム開発を進めていける環境になった上で、これから出前館のテクニカル面や組織をどうしていきたいですか?

【米山】
今はまだレガシーでモノリシックな設計になっていたものを、少しずつモダンな仕組みに移し替えているという状況です。出前館はエンドユーザーアプリ・加盟店アプリ・配達員アプリなどコンポーネントがすごく多いのですが、マイクロサービスで設計するメリットが大きいシステムが多いと感じています。ちゃんと設計するとマイクロサービスアーキテクチャの教科書のような、美しくてモダンな開発ができる環境になるので、まずはそこを目指しているところです。

今は「ここを変えるとこっちにも影響が出る」という感じで、大きな改修に手を出しにくい部分も多いのですが、きちんと整理していけばある部分はどんどんモダンな作りにリファクタリングしていける状態になっていくと思います。そういうモダンな環境で開発をしたいエンジニアにも興味をもってもらいやすくなるのかなと。今は過渡期なので辛いこともたくさんあると思いますけど、テクニカル面でいうと直近ではそういう動きをしていきますね。

【吉川】
古いものを入れ替える作業と、新しいものを作る作業を両方同時に行っています。すごく難しいですし、チームがいくつもある中で、お互いのチームの連携も難しくなってきますが、それをやりきる面白さはあると思います。

―テクニカル面の変化とともに、組織も変わっていくのでしょうか?

【吉川】
その時に起きている問題を解決するために、どう組織作りをしていくかということなので、当然、システムの体制が変われば組織も変わっていくと思います。現在は、大まかにチームを分けた状態にあって、それを大きく変えはしないのですが、人数も、動いているプロジェクト数も増えたことで、合わない部分が出てき始めています。チームの内容というよりは、担当するシステムを変えたり、チームを2つに分けたりということを考えています。

【米山】
エンジニアのWILLも関わってきますよね。例えば、今まではエンドユーザーアプリをやっていたけどサーバーサイドもやりたいです、という人がいたとしたら、それをなるべく叶えてあげられる組織のほうがいいでしょうし、そこは柔軟に変えていくんでしょうね。エンジニアのやりたいことによるかもしれないけど、理想としては、同じところにずっと留まるというよりは、色んなことができるようになってほしいです。

【吉川】
そうですね。ある程度効率的に開発できるためにチーム分けをしているけど、いずれ違うところも経験してほしい。シェアリングデリバリーのチームにずっといて、そのシステムしかわからないというエンジニアになってほしいわけではないです。

【米山】
組織的にも属人化を防ぐためにそうしたほうがいいし、エンジニア本人の成長という意味でも、柔軟に役割を入れ替えられる組織が理想ですね。

【吉川】
経験のあるエンジニアであれば、携わっている案件に関係がありそうなシステムを自分で調べたりもできるけど、若手は今自分の手元にあるものだけで頑張って走ってしまいがちです。エンジニア一人ひとりのスキルアップのためにも、色々なシステムに触れられるような組織作りを意識していかなければいけないのかなと思っています。

出前館エンジニアにはサービスへの理解とバランス感覚が必須

―どんな人が出前館のエンジニアに向いているのでしょうか?

【吉川】
出前館のシステムをよく理解している人が活躍しているように思います。業務やサービス、開発したシステムがどうやって使われているのかを、出前館のエンジニアってよく知っているんですよ。いわゆる開発会社ではなく出前館という事業をやっている会社なので、最終的にサービスで利益を出すということが会社として重視されます。

ユーザーを増やすためにどういう開発をするのか、加盟店が何を求め、どういうことが起きたら困るのかを、ちゃんとわかっていることがすごく大事です。技術的に難しいからチャレンジしたいということよりも、出前館の事業として、そこで成果を出すのが楽しいと思ってくれる人。自社サービスの開発が楽しいと思う人は向いているのではないでしょうか。

【米山】
いわゆる事業会社のエンジニアに求められる共通のものがまずあって、その上にさらに出前館のビジネスだからこそ求められてくる部分があるという二階建てのイメージです。

前者で言えば、自分たちのサービスを成長させるためにエンジニアがモノづくりをする、それに向くか向かないかがそもそもあると思うのですが、待つタイプの人はそもそも向かない。ユーザーにとってなにがベストなのか、自分から提案できる人が向いていると思います。

さらに出前館ならではの部分でいうと、出前館はBtoBtoCのモデルになっているので、エンドユーザー・加盟店・配達員・そして我々出前館すべてがWinになることが求められます。全員の最適解、最大公約数を取りに行くというハードルの高いことに向き合って、それを目指そうと前に進められる人がいいですね。エンジニアがやりたいことだけをやってしまったり、誰かから強く言われたからやるという姿勢ではダメで、バランス感覚も重要かなと思います。

"モノづくりができる"というのは軽やかに超えなければいけないベースの部分であって、さらに評価されるエンジニアは、そういう難しい課題に挑戦したい、飛び込みたいと思える人。作りたいものだけ作っていたいという人は、出前館のエンジニアには向かない。苦労してもその先にいるたくさんの人に貢献するためには、そういうマインドが必要だと思います。まぁ自分にも言い聞かせているんですけどね(笑)

【吉川】
システムってすごくたくさんあって、一人でできることってすごく小さいんです。中にはスーパーエンジニアがいて、すごい速さですごいものを作りますけど、それでも一人でできることはそんなに大きくない。チームで成果を出す、さらに隣のチームとも協力してもっと大きな成果を出す。出前館というサービスを良くするために、その力を出せる人がすごく活躍していると思いますね。

【米山】
これからの出前館のエンジニアとして増やしていきたい部分ですね。よくシリコンバレー型と言われますが、シリコンバレーって基本的に内製がほとんどなので、そういうエンジニア像の人が多いんですよね。世界的に通用するエンジニアってそういうエンジニア。そうなれる可能性があるので、ぜひトライしてほしいと思います。

技術領域の幅が広く可能性を秘めた出前館のサービス

―出前館の面白みやエンジニアとしてのやりがいについてお聞かせください。

【吉川】
事業がすごく伸びて追い風が吹いているし、競合も多い。その両方がやりがいだと思います。色んなインターネットのサービスがあって、色んな会社のフェーズがある。出前館は20年の歴史の中で今が一番伸びている時期です。何もないところから新しいことを生み出すわけではないけど、競合がたくさん出てきて、競って良いものを作るというチャレンジができる。なかなかそういうチャンスはないと思うので、チャレンジできる面白みを感じています。

【米山】
エンジニアってどんなに使われていないサービスでも、たくさんの人に使われるサービスでも、する苦労はほとんど同じです。使われないサービスだから適当に作って不具合を仕込んでやろうなんて思うエンジニアはいないでしょう。常にベストな状態で作ろうとしているけど、それでも不具合が出てしまうことがある。それはプロセス改善などでなくしていきましょうねという話なのですが、やりがいで言えば、同じ苦労をするなら、よりたくさんのユーザーに使われるほうがいいですよね。現段階での出前館にはそれがあります。

食に関わるサービスなので、サービスのドッグフーディングが気軽にできます。ユーザー目線でサービスを作りやすいのは出前館ならではの面白さであり、やりがいにも通ずる部分です。今は日々の改善に手一杯ですが、その先に「食の文化自体をどう進化させるか」というような大きな話ができる可能性も秘めています。早くそのフェーズに辿り着いて、もっと楽しいこともできるようにしたいですね。

【吉川】
かなり色んな技術要素が詰まっているのも、出前館のエンジニアとして面白い部分だと思います。全国にサービス展開しているけど、加盟店やユーザーからするとローカルサービスなので、位置情報やローカル系の知識や技術があれば活用できるし、シェアリングデリバリーの機械学習や、商品を配達するときに使うアプリにナビの機能を入れるなど、色んな技術がつながっているので、幅広くたくさんのことに挑戦できるチャンスがあります。技術領域の幅が広いのも面白いところです。

【米山】
データサイエンティストにとっても、出前館には大量のデータがあるので面白いし、まだ活用しきれていないのでチャレンジしがいもあると思います。ラストワンマイル問題、配達の効率化という課題についても、今は人が運んでいるけど、もしかしたら人じゃなくなるかもしれない。出前館は色々なテーマや可能性が秘められているサービスです。

進化の早い業界でエンジニアが成長するためには

―部下を育てる上で、どのようなことを大切にしていますか?

【吉川】
エンジニアの技術は、一度手に入れたら終わりというものではありません。今できないこともできるようにしていくマインドを持ってもらいたいし、それをしていくのがスキル面での成長だと思っています。若手や最初のうちはひとつの領域だけでもいいのですが、だんだん枠を広げて考えられるようにしていくことが大事。隣の人と一緒にチームで、開発以外の組織も一緒に、そして出前館として成果を出す。視野が広がって、大きなところで考えられるようになる。そういう視点を大事にしています。

【米山】
基本的に人って、マイナスをゼロにするより、プラスをもっとプラスにするほうがいいと私は思っています。エンジニアとしてやってきた環境がそれぞれ違うから、得意な箇所もちょっとずつ違います。もちろん不得意を直したいというのもいいことですが、どちらかというと、プラスの領域が違う人たちを集めて最高のプラスにしたいというイメージ。なので、暴れてほしいですよね。

よくある日本の組織イメージだと、自分たちがやってきた通りにすればいいという上司が多い印象ですが、今は時代の変化が早すぎて、20年前に良かったことが今も良いという保証は何もないので、良いと思うことを自ら考えてやってほしい。それに対して「こうしたほうがいいよ」ではなく「どうぞどうぞ」と言ってあげたい。何かあったら言ってね、とりあえずやってみてと。そういう環境でありたいし、そういう人と働きたいですね。

【吉川】
誰かみたいになりたいと思うより、自分がいいと思うことをやってほしいですね。目指そうと思える先輩も、今はすごくいいかもしれないけど、10年後には合わないかもしれない。業界も技術の進歩もすごく速いので、誰かとか何かをお手本にするのではなく、自分自身がどうするのか。明日自分はどうなっていよう?という感じで、色んなことにチャレンジしてほしいと思います。

【米山】
ロールモデル不在の時代と言われて久しいですが、エンジニアはまさにそうですよね。本当に環境が全然違うので。日本のコンピューターサイエンスのレベルも少しずつ上がってきていて、私たちがやってきた時代とも違うでしょうし、最近はベースが高くなっている印象があります。私のような「インターネット老人会」のメンバーができることは、経験する場所や働きやすい環境を提供することだけかなというイメージでいます。

階段の上り方は誰も指示しないので、逆にそこまでしないと成長できない人には辛い時代かもしれません。自由に泳いでください、何か壁にぶち当たったらいつでも相談してください、と。だからロジカルシンキングがマストです。論理的に考えられないと階段の上り方が自分で発明できませんからね。方程式は欲しがっても出てこないから自分で作ってね、いい方程式ができたら周りの人にも教えてあげてね、と。そういう気持ちで向き合っています。

 

※新型コロナウィルス感染防止対策を充分に行った上、撮影時のみマスクを外しております。

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