GoogleセッションでTOP5に選出。Vertex AIと万全のサポート体制がもたらした成功の舞台裏

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最先端技術を駆使しながら挑戦を続ける出前館。『Google Cloud Next Tokyo '24』では、Vertex AIの検索エンジンへの活用について、PdMの織笠 愛生さんが出前館を代表として登壇しました。100を超えるセッションの中で、出前館のプレゼンテーションはTOP5に選出される結果に。織笠さんは、自分の成果ではなく出前館のサポート体制が導いた結果だと振り返ります。 

今回のインタビューでは、プロダクト本部コンシューマ部コンシューマ企画グループでPMを務める織笠さんがプロジェクトを成功に導いた過程や、登壇にあたってのサポート体制、今後の目標について詳しく伺いました。 

目次

最新技術を活用して検索体験をアップデート 

── 出前館に入社した理由と現在の業務について教えてください。 

複合的な理由で入社を決めましたが、特に魅力を感じたのは出前館の事業構造です。出前館では、ユーザー、加盟店、配達員という3者のステークホルダーが存在します。その3者に向けたプロダクトが相互に連携しながら1つのサービスを形作っているんです。異なるステークホルダーのニーズや視点を調整しながら進めるプロジェクトに関わることで、さまざまなスキルや経験を身につけられると考えました。 

現在はコンシュ領域で検索体験の改善に取り組んでいます。最近では、既存の検索エンジンからGoogleのVertex AIを用いた検索エンジンにリプレイスするプロジェクトを進めました。 

── Vertex AI導入のきっかけとなった具体的な課題は何だったのでしょうか? 

元々使用していた検索エンジンには精度やコスト面での課題がありました。精度面では、ユーザーが入力したキーワードに対して、正式な名称やわずかな表記の違いで、適切な検索結果が得られないことが多々あったんです。  

さらに、既存システムのチューニングにも限界があり、運用には多くのコストがかかっていました。この状況を打破するために、検索エンジン改善プロジェクトが立ち上がった背景です。 

── そこで、織笠さんがPMとしてプロジェクトのリードを担当されたんですね。Vertex AIを選択するに至ったプロセスを教えてください。

まずは、既存の検索エンジンに替わる選択肢を5つほど洗い出しました。出前館のシステムに適合するかどうかという基本的な条件を踏まえつつ、開発にかかる工数、拡張性、コストなど、さまざまな観点から総合的に評価していきました。そこで、最終的に採用となったのがVertex AIでした。 

Vertex AIの魅力は、その技術的な優位性にあります。パーソナライズ機能やオートコンプリート機能がオプションとしてあり、僕らがゼロから作り上げなくても高度な機能を用いることが可能でした。APIを通じて既存システムにスムーズに統合でき、スケーラビリティや拡張性にも優れているため、将来的な拡張にも柔軟に対応できる点が導入の決め手となりました。

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社内外の協力によって生まれたリプレイスの成果

── リプレイスの取り組みの中で、特に大変だったのはどんなことですか? 

一番は、長年一緒に検索エンジンを運用してきたパートナー企業との調整です。以前の検索エンジンを導入した当初から、運用やチューニングまで手を取り合って進めてきた関係がある中、リプレイスとなれば契約を終了することになります。不義理にならないよう、慎重にコミュニケーションをとっていきました。 

一方で、社内の調整に関しては意外とスムーズだったので、特段苦労はありませんでした。開発中に出てきた問題も開発者の方々が迅速に対応してくれましたし、ビジネス側との調整も難なく進みました。

── 社内調整のハードルは高くなかったとのことですが、その理由としてどんなことが考えられますか? 

上層部や意思決定者が開発プロセスをしっかりと理解していることが考えられます。プロジェクトの初期段階で十分に話し合いを行うため、後から「これを変更してほしい」といった無理な要求が入ることはほとんどなく、スムーズに進行するんです。 

また、新しい課題が発生しても、上層部が柔軟に対応してくれるので、頭ごなしに指示されることがなく、とても話しやすい環境です。こうした理解と協力体制があるおかげで、社内のステークホルダーとの調整も円滑に進めることができています。 

── 社内の協力体制もプロジェクトの成功を支えているんですね。Vertex AIにリプレイスしたことで、どのような成果が生まれましたか? 

検索結果の精度が大幅に向上しました。以前は、正式な店舗名と少し表記が違うだけで適切な検索結果が表示されないという問題がありました。こういった表記揺れを手動で修正するのは限界がありましたが、Vertex AIを導入したことで、自然言語処理によってそのズレが補正され、ユーザーの意図に沿った結果を返せるようになりました。 

結果、検索画面からの遷移数が1.3%増加しました。さらに、メンテナンスが不要になったことで、検索コストを90%削減することができました。精度とコストの両面で期待以上の成果を得られたと感じています。 

── 期待以上の成果ということで、喜びも大きかったのではないですか? 

そうですね。リプレイスでここまで如実に数字が改善するとは驚きでしたし、率直に嬉しかったです。開発チームの頑張りによって、開発期間も12人月と短期間で成果を出すことができました。 

また、協業していたパートナー企業との会話もスムーズにいき、リプレイスに至るまでの対応人月もパートナー企業自らが減らすよう提案してくださり、予想外のコスト削減となりました。今回のプロジェクトを通じて、真摯な対応と信頼関係の構築がプロジェクト成功の鍵となることを再確認しました。 

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万全のサポートで掴んだトップ評価 

── Vertex AIのプロジェクトについて伺ってきましたが、今回、『Google Cloud Next Tokyo '24』で本プロジェクトについて発表されたとお聞きしました。 

はい。100を超えるセッションがある中、出前館の代表として登壇する機会をもらいました。そして、ありがたいことに、来場者からの評価が高かったセッションの5つに選出いただきました。 

── トップ5に選出されたときは、どのようなお気持ちだったのでしょうか? 

自分なりにやりきったという達成感はありましたが、それ以上に、「皆さんのお力添えのおかげだ」と強く感じましたね。役員クラスの方々を含め、資料作成から発表練習に至るまで、多くの方に支えていただいたからです。 

── 具体的に、どのようなサポートを受けたのでしょうか? 

資料作成の段階から、米山さん(執行役員 IT本部 本部長/VPoE)、神保さん(プロダクト本部 本部長)、南川さん(プロダクト本部 コンシューマ部 部長)には、内容や構成に関する丁寧なフィードバックをいただきました。特に、僕はビジュアル表現が苦手だったため、見せ方やデザインの面でも助けてもらいました。最初は30%ほどの完成度だったものが、最終的には100%に近いものに仕上がった実感があります。イメージ図の許諾調整も、大枝さん(執行役員 グロース戦略本部 広告部)が迅速に対応してくださいました。 

さらに、資料完成後は、オンラインで3回、オフラインで1回の発表練習を重ね、台本だけでなく話し方やテンポも磨くことができました。皆さんにご協力いただいた結果、当日はつまずくことなく、時間内に発表を終えることができました。 

── 執行役員や他部署の部長・本部長からもサポートを受けていたのですね。 

はい。決して僕が無理を言ったわけではなく(笑)、とても話しやすい方々ばかりで、自然とサポートをお願いできる雰囲気がありましたし、多忙な中でも快く時間を割いて協力してくださいました。 

── 織笠さんは周囲の協力を得るのが上手な方のように感じていますが、コミュニケーション面で大切にしていることは何ですか? 

最も大切にしているのは、相手に負担をかけないことです。そのために、迅速な対応を心がけ、提案時には必要な情報をしっかりと整えています。また、重要な事項は口頭で確認しつつ、証跡を残して行き違いを防ぐようにもしています。謙虚になりすぎず、必要なことを率直に伝えることも意識していますね。 

── いくつもの心がけが信頼を醸成しているのですね。 

チャンスの多い開発環境で、自分の力を伸ばし続ける 

── 社内での協力体制について伺ってきましたが、開発人材にとって出前館はどんな魅力があると考えますか? 

まず最初に思い浮かぶのは、最新の技術に触れられることです。今回導入したVertex AIのように、業界の最前線に立つ技術を活用できることは開発に携わる方の刺激になると思います。さらに、最近ではマイクロサービス化が進んでいるので、大規模システムにも影響を与えつつ、各マイクロサービス内での専門性を高められる点が魅力だと感じます。 

リリースサイクルも非常に柔軟で、月に何度もアプリのアップデートが行われる環境です。以前の職場では半年に1度程度のリリースしかできなかったので、出前館のスピード感には驚きました。 

今では、システムの透明性も格段に向上していて、どの部分を修正すればどのシステムに影響があるのかが明確になり、スムーズかつ効率的な開発体制が整っています。 

── 魅力的な開発環境があるとのことですが、若手が活躍するチャンスについてはどのように感じられていますか? 

若手が活躍するチャンスは大いにあると思います。そもそもタスクが豊富で、最新技術を積極的に取り入れる風土があるため、魅力的なプロジェクトにアサインされる機会が多いです。僕自身が思いがけず登壇の機会を得たように、自分の力を試せるさまざまなフィールドがあります。  

年次や年齢に関係なく、スキルセットがしっかりしていれば、横断的な案件にもどんどん挑戦できるので、非常にフラットな環境だと感じています。 

── 最後に、織笠さんの今後の目標について教えてください。 

直近では、アクティブユーザー数の向上を目指す施策に注力したいと考えています。ユーザーにとってさらに使いやすく、魅力的なサービスを提供することで、デリバリー業界の圧倒的No.1サービスを目指していきたいです。  

また、個人的な成長も大切にして、特に決済分野など、技術的に難易度の高いプロジェクトにも積極的に取り組みたいですね。自分のスキルを伸ばしつつ、それが結果として出前館の発展にも寄与するような形で、これからも努力を続けていきたいです。
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取材・執筆/早坂みさと 


おまけ
 
Googleさんのご厚意で、アメリカのGoogle本社に招待いただき、最新の生成ai活用事例のワークショップを受講してきました。
海外の様々な競合・サービスの具体的な取り組みを学び、非常に刺激的で魅力的な時間を過ごさせていただきました! 

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