運用・開発体制とデータモデルをイチから再構築。Salesforceの特性を最大限に活かすリプレイスの全貌

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デリバリーの需要が拡大するなか、企業として急成長する出前館。私たちはより良い事業や組織を実現するために各種の取り組みを続けており、その施策のひとつとしてSalesforceを活用した社内オペレーションのDX"があります。

出前館では、コロナ禍で急速に増加した出前館への出店ニーズに応えるため、加盟店のリード獲得から商談までの一連の工程を管理するために2021年にSalesforceを導入しました。しかし、加盟店のライフサイクルを統合的に扱えなかったり、標準機能を使いこなせていなかったりといった複数の課題が生じていたのです。

この状況を改善してSalesforceを全社的に活用するために、出前館では運用・開発体制の見直しやシステムのデータ構造変更などを進めています。今回はこのプロジェクトを推進する李 哲山(写真右)と小山 優輝(写真左)に話を聞きました。

目次

Salesforceの活用方法を刷新。その背景にあった課題

まずはお二人の役割や業務内容を教えてください。

李:CX本部 CX戦略部 CX企画グループのグループマネージャーを務めている李です。プロダクト本部 情報システム部 IT戦略グループも兼任しています。私の主な業務は、出前館のエンドユーザーと加盟店、配達員、社員という4つのステークホルダーを対象に、サービス体験の可視化や改善をすることです。さらに情報システム部と連携して、加盟店情報を扱うためのSalesforce関連のプロダクトマネジメントや企画を推進しています。

小山:プロダクト本部 情報システム部 IT戦略グループの小山です。私はSalesforce再編プロジェクトの開始と同時期の2022年10月に出前館へ参画し、Salesforce周りのシステム設計や運用を主に担当しています。

今回のインタビューでは、Salesforceの運用・開発体制の見直しやシステムのデータ構造変更などの事例を伺います。前提として、これまで出前館ではどのような情報を管理するためにSalesforceを利用していましたか?

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李:出前館ではもともと、営業本部が加盟店のリード獲得から商談までの一連の工程を管理するためにSalesforceを導入しました。加盟店がオープンする前のオンボーディングの工程までをSalesforce、オープン後は出前館の基幹システムや営業本部管轄の別のシステムを用いて管理し、そして退店の工程を再びSalesforceで管理するという使い方をしていました。

Salesforceの活用が限定的であったため、システムの機能やデータを用いて全社的なCRM改善が難しい状態でした。また、加盟店のリード獲得から退店までのライフサイクルの間でオペレーションの分断が起きることで、Salesforce内で加盟店データの整合性が取れなくなっていた部分もありました。

こうした課題を解決するために、「Salesforceをうまく活用してCRM施策を統合的に管理する」「データの整合性が取れた状態を実現する」などを主な目標に据えて、Salesforceの全社活用に向けた体制見直しを決めました。

小山:補足すると、もともと出前館のサービス利用数が急増していたコロナ禍のタイミングで、営業管理のためのツールとして急いでSalesforceを導入したため運用体制が整備される前にツールを活用していたという背景がありました。

また、標準機能ではなく、あえて自社向けのカスタマイズ機能を使っており、既存の機能を使いこなせていない状態でした。そのため、Salesforceをうまく活用して出前館の加盟店管理を行うためには、業務フローやデータ構造を全体的に変えることが望ましかったのです。

Salesforce活用のために実施した施策とは

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プロジェクトで実施した施策として「①業務部門の要望(機能追加・改善)に迅速に対応するために、Salesforceの特性を踏まえた運用開発体制を構築」「②リード獲得からコンバージョンまでのプロセスをデザイン」「③テーブル設計や項目設計などの見直し」などがあったと伺っています。

李:まず①ですが、Salesforceはアジャイル開発の思想に沿ってシステムが設計されています。プロダクト部門ではもともとウォーターフォール開発を採用していたのですが、Salesforceをうまく活用して顧客管理を行うためにも、Salesforceの思想に沿った開発スタイルに変えたほうがいいと判断しました。

企画者が高いアジリティを持ち、営業やコールセンターの方々の運用を理解しつつアジャイル的に施策を立案・実行できる開発体制を整えようと考えたのです。その思いのもと、プロダクトオーナーやスクラムマスター、開発チームから成り立つ運用開発体制を構築し、営業やコールセンターから要件を拾い上げて方針を議論していく流れにしました。

次に②ですが、書籍『THE MODEL』(著:福田康隆・翔泳社)に、セールスフォース社で実践されているBtoBマーケティングや営業活動プロセスの分業体制が記されています。Salesforceの標準機能はこの業務プロセスを反映しているのですが、標準機能をそのまま活かして加盟店を管理するためにも、出前館の営業活動全体をSalesforceで可視化できるように業務プロセスのデザインを変更しました。

そして③ですが、先ほど述べたように既存の設計では加盟店のリード獲得から退店までのライフサイクルを統合的に管理できておらず、データの整合性が取れなくなっていました。そこでライフサイクルに沿った形で、整合性をとりつつデータを管理できるようにテーブル設計や項目設計などを見直しました。

ここまでは主にビジネス側の取り組みですが、システム側は何を実施しましたか?

小山:李さんが説明してくれたテーブル設計や項目設計、不整合データの修正などを実現するために、システム側では継続的にデータのインポートやクレンジングを行いました。加盟店のデータは毎日書き換わるので、この変更を常に新しいSalesforceのシステムへと取り込んでいく必要があります。

今回のプロジェクトでインポートやクレンジングの対象になったのは、営業とコールセンターで扱われているデータです。コールセンターは朝7時から深夜2時まで稼働しています。そして、朝5時にはデータ移行が完了した状態で動作確認をする必要があったため、実質的に移行にかけられるのは、1日あたり3時間ほどでした。

仮にデータ移行に失敗してサービスを止めてしまうと、コールセンターの業務に支障が出ます。しかし、移行期間中はインポートやクレンジングの作業だけをやっていればいいわけではなく、優先度の高いビジネス要望がある場合には、その作業を並行して対応する必要がありました。プレッシャーのかかる大変な作業でしたが、問題を起こさずデータ移行を完了でき、Salesforce活用の地盤を整えられたと感じています。

ツールの使い方ではなく"事業"をデザインする仕事

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今後の目標についてもお聞かせください。

李:プロジェクト全体のロードマップは上図のような流れを予定しています。今回、私たちが新しいSalesforceのシステムへ引っ越しをして、全体的なデータ移行を実現したフェーズをDay1と呼んでいます。2023年3月28日のリリースで、このフェーズを完了しました。加盟店の状況を一元管理して、誰が、いつ、何を、どうしたのかをSalesforce上で可視化できるようにしたのが本フェーズで達成したことでした。

Day2からは、上場企業として内部統制をさらに強化するため、Salesforceにおける情報の取り扱いを整備したり、出前館の基幹システムとの連携を図ってシステム間のデータ整合性を取ったりするなどの対応を、2023年10月までに順次実施していきます。それらを実現できたら、次はDay3のフェーズで顧客との接点を強化していく予定です。

カスタマーセンターと、加盟店、配達員、エンドユーザーという出前館の各ステークホルダーとのつながりをSalesforceで統合的に管理できれば、注文履歴の情報をもとにエンドユーザーへの迅速な対応ができたり、加盟店のキャンペーン管理をよりスムーズに行ったり、配達員の社会保険や報酬などの管理をしたりと、幅広い活動を実施できるはずです。こうした目標を実現するために、出前館では現在、Salesforceスペシャリストの採用を推進しています。

カスタマーセンターと、加盟店、配達員、エンドユーザーという出前館の各ステークホルダーとのつながりをSalesforceで統合的に管理できれば、注文履歴の情報をもとにエンドユーザーへの迅速な対応ができたり、加盟店のキャンペーン管理をよりスムーズに行ったり、配達員の社会保険や報酬などの管理をしたりと、幅広い活動を実施できるはずです。こうした目標を実現するために、出前館では現在、Salesforceスペシャリストの採用を推進しています。

Salesforceスペシャリストが今のフェーズの出前館に参画すると、どのような経験を積めるでしょうか?

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李:企業において、何かのツールを組織に取り入れる場合「ツールを導入すること」や「導入したツールで日々の運用を回すこと」に終始してしまう傾向があります。今回のインタビューでお話ししたように、現在の出前館では、日々進化していく事業戦略に合わせてSalesforce運用を効率化したり、事業との相乗効果を生み出したりするために工夫をする必要があります。

つまり、ツールの導入や運用を行うだけではなく、事業とのシナジーを起こすという両軸を考えていかなければなりません。自分たちの活動に伴って、出前館のバックオフィス業務や各ステークホルダーが得られる体験そのものが変化していくため、仕事を通じて得られる知識やノウハウが他社と比べて多く、Salesforceスペシャリストとしての専門性もさらに高められると考えています。

小山:私からは、自分自身の経験を踏まえてお話ししますね。出前館に入社して、すごく驚いたことがあります。サービスとして20年以上の歴史があるので、当然ながらFAXのシステムのようなレガシーなサービス、それらのシステムを埋めるための手動作業などの負債は残っているのですが、それらを積極的にモダンな技術や仕組みへとリプレイスしていることです。

だからこそ今のフェーズならば、理想的な業務フローやシステムの設計をゼロベースで考え直すことができます。Salesforceに関しても良いものを積極的に取り入れていけるタイミングなので、システムのことだけではなく総合的に事業全体を見て改善したい方にはマッチするはずです。

どのようなスキルやマインドの人に来てほしいですか?

小山:技術視点で言えば、事業や業務プロセスを理解してシステム設計に落とし込める方が、求める人物像に近いです。「ずっとコーディングばかりしてきた」という方よりは「ビジネス側とも連携をとりつつ、要件や設計を考えてきた」というエンジニアが活躍できる環境です。

李:私は個人的に、「もの」発想ではなく「こと」発想が求められる環境だと思っています。要するに「結局、このシステムを使って各ステークホルダーに提供したい価値とは何だろう?」とか「各種の施策に取り組むことでどのような成果を得られるだろうか?」と考えたうえで技術側とすり合わせをして、最前の手法や進め方を探っていくことが必要です。ぜひ、常に当事者意識を持って取り組める方に来ていただきたいですね。

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